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書評 『もいちどあなたにあいたいな』 新井素子

51EBCU1ECrL.jpg「・・・なんか変?・・・」
大学生である主人公の澪湖は、ある日父の妹である「やまとばちゃん」(やまと叔母ちゃん)にかすかな違和感を覚えました。
その違和感は、日々を重ねるうちにますます強くなっていき、ある日確信にと変わります。
「この人は、やまとばちゃんじゃない!!」
では、ここにいるのは誰なのか?
やまとばちゃんの精神が壊れ、多重人格になった?
やまとばちゃんの隠された双子の妹?
やまとばちゃんそっくりのロボット?
やまとばちゃんの精神を乗っ取った宇宙人?
そんな突拍子もない考えを、この叔母のまわりの人々の様々な視点から語ることで核心へと迫っていきます。
そんな彼女の正体は、何らかの事故でパラレルワールドからスリップしてきた別の世界のやまとばちゃんだったのでした。

私は30年前の大学生の頃から新井素子を読んでいますが、この作品を読んで感心とも感動とも感慨ともいえる、何とも言えない想いを抱いてしまいました。
まず第1に、感心したのは物語の構成です。
パラレルワールドという設定はかなり昔からあるSFの設定ですが、そんなオーソドックスな設定を斬新なものに変えたのは、語り手の視点です。
この手の話は、大抵はパラレルワールドを行き来する主人公の視点からの冒険譚みたいな話になりますが、ここでは、多次元世界からスリップしてきた人はまわりからどう見えるかという視点で書かれています。そして、その叔母に疑問を抱いた主人公が叔母の正体を突き止めるという、設定はSFですが実際は推理小説のような構成になっていることです。
(推理小説の謎の核心がパラレルワールドっていうのはSFとしても推理小説としても中途半端ではないかという指摘もありますが、まぁそこはひとつ・・・)
ちなみに、解説でSF評論家の大森望はこの設定を絶賛していました。

第2に、感慨深いなと感じたのは、この作品は7年間かけて書かれたということです。
40歳代のほとんどの期間を費やしたこの作品は、20代の頃の作品とはテンポがまるで違います。文体は新井素子調ですが、別人が書いたといわれても納得してしまいそうです。
以前このブログでも『ひとめあなたに』という新井素子20歳の頃の作品を紹介したことがありますが、その作品については、細かい部分の設定や構成のあれこれは抜きにして20歳という年齢だから書くことができた作品と評しました。
より具体的に言うと、その作品の設定は、「1週間後に地球に隕石が衝突し滅亡する」となったときに人々が自分の仕事を放棄して最後の時をむかえるということが前提となっており、そのために電車もバスもタクシーも、あらゆる公共交通機関が麻痺してしまうために、恋人がいる鎌倉まで歩いていくという話なのです。
これを初めて読んだ時は私も20代の学生だったので、すんなりと読み流してしまったのですが、20年以上社会で働いてこの歳になって思うのは、1週間後に地球が滅亡するとしても、こんなことにはならないなということです。
もし私が電車の運転手だったら、タイタニックに乗っていた音楽家が最後の最後まで演奏を続けたように、最後の最後まで電車を運転し続けるでしょうし、おそらく同じように考える人の方が多数派であるように思います。
しかしこの作品は、そんな粗がどうでもいいくらい勢いがって面白いのです。
あれこれはあるが、力技で何とか辻褄を合わせたような、まるで若いころの自分の仕事の仕方を見ているような感じで、まさに20歳の頃の作者だから書くことができた作品でした。
しかし今回の作品は、40歳代の7年間かけただけあって、当然ながら若いころの勢いもなく、流れが途中途中で分断されているような印象を受けました。
それはまるで、若いころのやり方がだんだん通用しなくなっていき、昔はすぐに片づけられたことでも妙に時間がかかってしまい、気持ちが乗らないと全く仕事が進まず、期限があるから仕方なくやっつけで進めてしまうという、老化した自分の姿を見るようです。

単体でこの本を読むと、どうということのない普通の本なのですが、若いころから知っている自分と同年代の作者と作品の変化を、ついつい自分の人生と照らし合わせて見てしまうと、書評とはまた違った感想を持ってしまうものなのです。

ちなみに、この本は新潮文庫なのでカバーに著者近影が掲載されているのですが、前回の新潮文庫から15年ぶりに出たこともあって、著者の写真にも驚くほどの大きな変化があるということも付け加えておきましょう。
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  1. 2013/09/16(月) 15:46:06|
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山女ひろし

Author:山女ひろし
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