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書評 『第七官界彷徨』 尾崎翠

14.jpg主人公の小野町子が、はるか昔の夢見る少女の頃の恋する自分を回想する物語です。
ある秋から冬にかけての短い期間、彼女は個性的な兄や従兄たちと奇妙な共同生活をします。
精神分裂病の女性患者に恋をし、同僚の医師と患者を奪い合う分裂心理病院の医師・長兄小野一助。
自分の部屋に大根とコケを栽培し、コケの生殖を『植物の恋情』と名付けて人間の恋愛に見立てた論文を書く農学部の学生・次兄小野二助。
調律の狂ったピアノでコミックオペラを歌う音大受験の浪人生・従兄の佐田三五郎。
これらの変人たちが繰り広げる一種異様な環境で、町子は詩人になることを夢見ています。

一助が研究している分裂心理学を読んで『一人の女性がふたりの男性を同時に愛している状況』と空想したり、二助の書いたコケの生殖に関する論文を隠れて愛読したり、恋愛に対する憧れを自分の中にふくらませる町子。
非日常的な共同生活における兄たちとの交流を通して、長兄の同僚の医師への恋を意識する彼女は、まさに『第七官界』という内的世界をさまよう夢見がちな少女です。

この作品は昭和6年に書かれていますが、文章のレトリックはともかく、内容は全く古さを感じさせません。
兄たちの変人ぶりや会話の内容、主人公の少女のキャラクターは、まるで大島弓子のマンガを彷彿とさせます。
マンガの中に『個人の内面』という近代日本文学の要素を取り入れ、『性的身体を抱えた少女の内的世界』を描いたのが大島弓子(を含む二四年組)なのですから、時代的なことを考えると順序が逆なのかもしれませんけど。

大島弓子のマンガに慣れ親しんでいる自分にとってこの作品は、80年前に書かれたとは思えないとても身近に感じる作品です。


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  1. 2011/08/18(木) 21:14:24|
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