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書評 『一千一秒物語』 稲垣足穂

30.jpgこの本を手に取ったのは30年ほど前、私がまだ学生の頃でした。
当時、私は少女漫画雑誌 『月刊LaLa』 を定期購読していたのですが、その中で倉多江美という漫画家が 『一万十秒物語』 という短編マンガを連載していました。
お笑い、寓話、ミステリー、哲学、スリラー、パロディ、ギャグ、ナンセンスなど、ありとあらゆる物を題材にした短編読み切りマンガで、その独特な絵柄と個性的な切り口が他にはみられない絶妙な雰囲気を醸しだしており、マンガの奥深さを必死に追求していた当時の私は、その面白さに夢中になっていたのです。
そんな私が、このマンガのタイトルの元になった稲垣足穂の『一千一秒物語』 に興味を持ったのは、必然的な流れだったのかもしれません。

月が追いかけてきて、流星が悪態をつき、電車から飛び降りた瞬間に 『自分』 を落としてしまい、井戸に落ちた自分がブランデーのビンから這い出してくる。
そんなシュールで荒唐無稽な小話を70本ほど取り揃えたこの小説は、掌編集形式の不思議な魅力に満ちた作品なのです。
1編の話は3行で終わることもあれば2ページに渡ることもあり、その不可思議で奇想天外な発想はファンタスティックな寓話で満ちあふれています。

初めてこの作品を読んだ時、それまで見たこともない形式とその不思議な読後感に言い様のない魅力を感じていましたが、実は半分以上意味がわかりませんでした。
その特異な発想に脱帽するような魅力を感じる作品があると同時に、 『この話は、どういうふうに捉えたらいいのだろう?』 と頭を悩ますものもあり、当時の自分には面白さを理解出来ない作品も多数あったのです。
今読み返してみると、その当時には分からなかった新たな面白さを発見できます。
それはまるで、難解さゆえにあまり売れないシュール系関東お笑い芸人のショートコントネタのようでもあり、意味不明なのにおもしろい吉田戦車のマンガのようでもあり、奇想天外な話をトボけた表情で語る坂田靖子のマンガのようでもあり、インディーズのナゴムレーベルの曲のようでもあります。

この作品が発表されたのは1923年の大正時代。
暗くて陰湿で独特な体質の近代日本文学の中にあって、それらを否定するような新たな空間を創造した幻想的なイメージによるその特異な語り口は、90年近く経った今でも全く古さを感じさせず、現代においても見事に光を放っているのです。

ところで、この作品には句読点が全くありません。
区切り部分は全て1字アキにしており、詩のようでもあり、ネタ帳のようでもあり、小説のようでもあり、台本のようでもあります。
まさに、既成の枠組みにハマらない 『イナガキタルホ』 というジャンルがここにあるのです。



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  1. 2011/11/23(水) 19:05:12|
  2. 書評
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:9
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コメント

ヤマメさん、こんばんは。私も倉多江美フアンでした。
『月刊LaLa』 も懐かしいし・・・。稲垣足穂の『一千一秒物語』。絶対読みます。いい本を紹介してくれてありがとうございました。
  1. URL |
  2. 2011/11/24(木) 21:44:52 |
  3. リリー・スー #-
  4. [ 編集 ]

倉多江美

リリー・スーさん。毎度コメントありがとうございます。
いいですよね、倉多江美。
当時の私は 『エスの解放』 にすっかり虜になっていましたよ。
  1. URL |
  2. 2011/11/25(金) 01:13:42 |
  3. ヤマメ #m3ZOdJy6
  4. [ 編集 ]

『エスの解放』 ・・・今その作品名を読んで、あのころの
鳥肌をかんじました。忘れてたけど、『エスの解放』 。気持ち悪い。しかし解かなくては、と、当時感じてたのをおもいだしました。
  1. URL |
  2. 2011/11/25(金) 17:48:36 |
  3. リリー・スー #-
  4. [ 編集 ]

オモシロそう

う~む、これはいろんな意味で興味深い作品ですね。
大正時代に書かれたものですか。僕らが思っている以上に、昔の人は豊かな感性と発想を持っていたんですね。
句読点がない? 今、メールなどでそういう文章を見ることが多いけど、ある意味、先進的だったのかもしれませんね。
  1. URL |
  2. 2011/11/25(金) 18:38:27 |
  3. クマコー #-
  4. [ 編集 ]

ブログだ!

クマさん、毎度様です。
本は縦組みなので気づきませんでしたが、確かに言われてみれば、これ、横組にするとブログ的ですよ。
さすがクマさん、目の付けどころが違いますね。
  1. URL |
  2. 2011/11/25(金) 19:08:54 |
  3. ヤマメ #m3ZOdJy6
  4. [ 編集 ]

本好きはいかにして、稲垣足穂に行き当たるあるいは行き着くのかってね。
私も幻想小説は適度に好きだったが、全くたどりつかなかったな。
図書館で見たら、三島由紀夫が選者で、内田百閒、牧野信一そして稲垣足穂の3人をまとめて一冊にしていた。
その解説で三島は、牧野信一を良くも悪くも内田と稲垣の中間として評していたが、とすると、稲垣は牧野信一の先にいたのか。うーむ。知らなんだ。
ちなみに、三島はゾッコンな書きっぷりで稲垣足穂を評しているな。
  1. URL |
  2. 2011/11/28(月) 11:26:29 |
  3. 藤伸一 #-
  4. [ 編集 ]

勝手口

コメントありがとうございます。先日はどうも。
う~ん、確かに文学の世界から入ると稲垣足穂までは遠いかもしれませんね。
私の場合は、マンガやSFから稲垣足穂に行っているので、すぐとなりって感じです。
日本の文学の流れを全く無視して稲垣足穂を読み、その後少しずつ他の文学作品を読むようになったので、勝手口から入って正面玄関に向かっている感じでしょうか。
  1. URL |
  2. 2011/11/28(月) 12:03:42 |
  3. ヤマメ #m3ZOdJy6
  4. [ 編集 ]

いやいや、正面玄関には向かってないと思うよ。
地下室とか裏庭とかじゃないかね。
  1. URL |
  2. 2011/11/28(月) 12:15:38 |
  3. 藤伸一 #-
  4. [ 編集 ]

えっ

うっ、しまった。
正面玄関だと思ったのに・・・
  1. URL |
  2. 2011/11/28(月) 12:22:24 |
  3. ヤマメ #m3ZOdJy6
  4. [ 編集 ]

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